【研究内容】

  当研究室では、疾病や適応進化と深い関わりを持つ遺伝的多様性の解析を行うことにより、遺伝情報制御機構や分子進化の観点から生命現象を理解することを目指しています。疾患原因遺伝子変異の同定のみならず、発症機序解明を目指した動物モデルによる遺伝子変異機能解析、及び新規診断法・治療法開発を目指した ゲノム・エピゲノム疫学研究を展開しています。さらに近年は非モデル生物のゲノム解析や、古人骨DNAのゲノム解析にも着手しています.主な研究テーマは以下の通りです。


A. .神経難病の分子基盤の解明
 次世代シークエンサは1回のランでヒトゲノム(30億塩基対)の数倍の配列情報を得ることができます。生体防御医学研究所にはショートリード用のイルミナ社製NovaSeq、HiSeq2500、MiSeqなどの次世代シークエンサが設置されており、これらを用いたゲノム解析を行っております。愛媛大学、久留米大学、高知大学他との共同で収集したさまざまな家族 性神経疾患の疾患責任変異の探索を、連鎖解析とエクソーム解析を併用して進めています。エクソーム解析とは、ゲノムDNAからエクソン配列のみを抽出増幅して次世代シークエンサにかけることで、全エクソンの塩基配列を一挙に決定する技術です。現在解析の対象としているのは、以下のような疾患です:
    本態性高CK血症
    家族性ミオクローヌスてんかん
    家族性ニューロパチー
    家族性痙性対麻痺
    孤発性脊髄小脳失調症
    波紋筋病…など




B. 非モデル生物のゲノム解析
 生物毒は、新たな創薬シーズとして近年大変注目を浴びています。我が国にも固有の毒蛇ハブ(Protobothrops flavoviridis)が生息し,毒の激烈な効果で広く知られていますが,毒の作用機序にはまだ未解明な点が多く残されています。また主要な毒成分タンパク質が加速進化していることがわかっており,進化学的にも大変興味深い遺伝子群です。当研究室では,創薬シーズ開拓と加速進化機構の解明を目指して,以下の研究を進めています(東京大学、東北大学、崇城大学、沖縄科学技術大学院大学、国立清華大学(台湾)などとの共同研究)。



1. 全ゲノム配列決定
 毒蛇の全遺伝子機能解明に向けた基盤情報として、ハブとその近縁種の全ゲノム配列決定を進めています。ハブ(Protobothrops flavoviridis)については、奄美大島産のメス個体の抹消血から抽出したゲノムDNAを用いて、複数種のシークエンサ(ロシュ454FLX、イルミナMiSeq、イルミナHiSeqなど)で取得したショートリードのシークエンスデータからのアセンブリを奄美ハブゲノムドラフト(HabAm1)として公開しています(Shibata et al 2018) 。また、ハブの近縁3種(沖縄ハブ、トカラハブ、サキシマハブ)の解析も進めています。さらに、近年はハブを含むクサリヘビとは全く系統の異なる毒蛇であるコブラ類についても、インドコブラ、タイワンコブラを中心に解析を進めています。

2. 毒蛇のトランスクリプトーム解析
 毒蛇の全遺伝子機能解明に向けた基盤情報として、毒腺をはじめとする複数の組織からイルミナHiSeq及びPacBioを用いて転写産物の網羅的な配列情報取得し、遺伝子カタログを作製しています。作製した遺伝子カタログは、定量的RNAシークエンシングのための参照データとなります。また遺伝子カタログは上述の全ゲノム配列決定後のアノテーションのためにも必須の基盤情報です。

3. 国内ハブ類3種の島嶼集団における遺伝的多様性の解析
 ハブ集団の遺伝的構造を解明し、ハブとの共存を可能にする保全遺伝学のための情報基盤を確立することを目指し、ハブの野生集団における遺伝的多様性の解明を行っています。また侵入個体によるハブへの遺伝子汚染が危惧されているサキシマハブやタイワンハブは、DNAマーカーを用いた雑種判定手法の確立を目指しています。